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日が傾き、ビルの影が長くなり始めた頃。
家路を急ぐ学生達の波の中に、ツンツン頭の少年、
上条の右手には学生鞄、左手にはパンパンに詰まったスーパーの袋があった。袋の中には数日分の食材が入っている。一人暮らしだった頃はこんな
(アイツが来てから、エンゲル係数上がり過ぎな気がする今日この頃ですよー……)
左手にかかる重さに反比例して軽くなったポケットの財布の事を思うと、上条の気持ちはいささか
そのおかげで寮への歩みも
そこで上条は、人の流れを
「不良達から逃げてる内にこの辺の道は覚えてしまったなぁ。きっかけはうれしくないけど、こういう時に使えるのが利点だよな」
『不幸』に縁のある上条は、なぜか不良達に
今日はこの近道に入るからといって面倒事はない。さっさと通り過ぎてしまおうと思った上条だったが、
「ん? 何か不思議な感触が……」
地面の感触がおかしい事に気がついた。
アスファルトの固い反発ではなく、かと言って水たまりに突っ込んだようでもない。まるで柔らかいものを踏んづけたような感触で、
(もしかして犬のフンでも
内心で『不幸だー……』と
人間が倒れていた。
「……………………………………………………………………………………………………………」
上条は反応に困った。
何かリアクションの言葉を上げてしまうかと思ったが、あまりにも驚いてしまうと、人間言葉が出ないものだ。
(……さて、この状況どうしたものですかねぇ……)
どう対応するか悩んだ
すると、倒れていた人物が身じろぎを始めた。
思わず上条はズサッと後ずさる。距離を取ってやっと、さっきよりも冷静にその人物を観察する事ができた。
その人物が着ている服は、どこかの学校の制服のようだ。
(――って! スカートって事は女の子かよっ! うわっ、踏んづけたけど大丈夫か!?)
内心ビクビクしながら、上条は少女の動きを待った。
顔を上げた彼女はキョロキョロと周りを見渡した後、ゆっくりと地面に腕をついて体を起こした。そして、地面に
若干地味な印象を受けるが、かわいいという分類の美人だろうか。肩にかかる髪の毛先はウェーブがかかっていて、どこかほんわかとした印象を受ける。しかし、疲労でも
しばらくの間、二人は目を合わせていた。
だが、少女は何の反応も示さない。ただ、大きな
最初こそ上条も同じく彼女に視線を合わせていたが、さすがに
「え、ええっと……、だ、大丈夫か?」
声をかけてみる事にした。
それに少女は小首を
ぐ――――――…………。
それが自分のお腹から鳴ったのに気づいた少女は、
そんな少女の反応に上条はさらにどう対応したものか困ってしまう。
とは言っても、このまま立ち
(そうなるとここはコイツを使ってみるしかないか――)
上条は学生鞄を地面に置くと、空いた右手で、スーパーの袋からとある物を取り出した。
取り出したのは、何の変哲もないシュークリーム。
どこかの名店の物でもない大量生産品だ。だが、特筆すべきはその大きさ。ソフトボール大もの大きさで、商品名も『満足!! ハイカロリーシュークリーム』と、ダイエット中の女の子から目の
しかし目の前にいるのはお腹を空かせた女の子。ダイエットとは無縁だろう。
(いやまぁ、過激なダイエット中で行き倒れたっていう可能性も否定できないけどさ)
そんな事を考えながら、
少女は目の前のシュークリームをきょとんとした顔で見つめていたが、
「……食べていいんですか?」
初めて口を開いた彼女に、上条は
すると、少女は上条の手からシュークリームを受け取ると、袋を開けて、ぱくっとかぶりついた。
一口
食べている間に彼女の事情でも聞こうかと思っていた上条だったが、その食べっぷりに口を
(ここは待ってやるしかないか……。とは言え、こんなとこで何してるんだって話だよなぁ。誰かが来て面倒事にならなければいいんだけど)
こうやって素性の知らない人間と出会うと、かなりの確率で面倒事に巻き込まれる事に、上条は記憶
周囲に視線をやってみるが、幸い誰も来る様子はない。どこぞの魔術師だとか特殊部隊がやって来るパターンではないようだ。
(それだけで安心ですよ、上条さんは……)
ホッと胸を
「――――って、ええっ!? いない!?」
さっきまでそこにいたはずの少女がいなくなっていた。
ご
「そういや背中を向けている時に『ごちそうさまでした』っていう声が聞こえたような……」
気を
「よくよく考えれば、そんな気にする事もないか。誰かに追われてるって訳でもなさそうだったし、体調が悪かったとかそんな感じだよな。……多分」
今更どうしようもないのだが、胸のつっかかりが取れず頭がもやもやとする。
このまま見逃してもいいのだが、それを簡単に見過ごせるような人間であれば、彼はまず倒れていた彼女に関わろうとしない。
「……しゃあない。ちょっとだけでも探してみるか」
同居人を待たせない程度に少女を探す事に決め、裏道から大通りへと出るのだった。