第一章 幻想飛翼 Level_Changer.

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 傾いた日はすっかりビル群の向こうへと消え、街灯に明かりが灯り始めている。そろそろ完全下校時刻の為、学生は寮に戻る時間だ。

 そんな時間に、てんは一人第七学区を歩き回っていた。

 目的は『幻想飛翼レベルチエンジヤー』の情報収集。

 都市伝説の情報は主にネットから拾ってくるものの、それを調べるのはネットだけでなく、自分の足も使う。怪しいアイテムのたぐいは裏で取引されるという情報が多いので、こうやって街中で情報を集める事は十分に役立つ。

 とは言え、真偽さえも怪しい『幻想飛翼』に関わる情報は一切入ってこなかった。

 いくつか仕入れた情報は、『窓のないビル』や『突然壊れる電化製品』、『超能力を無効化する能力』と、どこかで聞いたようなものばかり。しかも内容はすでに都市伝説サイトに載っているようなレベルで、目新しさもなかった。

 ただ、都市伝説とは関係ないものの、一つ変わった事があった。

 うわさ話をしている人はいないかとぶらぶらしているとスーツを着た男に突然話しかけられた。女の子の写っている写真を見せると『この子を見た覚えはないか?』とたずねられたのだ。

 写真の女の子を見た覚えはまったくなかったが、まるで警察の聞き込みのような展開に思わず心がおどり、どういう事情なのか逆に尋ね返したりしたのだが、男は『知らなければそれでいい』と言って、足早に去っていった。

「今思うと、あのおじさんの後を追ってもよかったかなぁ。すっごい面白い話があるような気がしたんだけど……」

 佐天はそんな考えにいたるが今更の話で、男がどこに行ったのかさえ分からない。

 調査が徒労に終わり、目新しそうな一件も逃がしてしまい、佐天は肩を落とす。

「はー……、やっぱり情報が少なすぎるよね。とは言っても『幻想飛翼』はサイトでもまったく情報がないしなぁ……」

 携帯電話で都市伝説サイトをのぞいてみるが、『幻想飛翼』の情報は更新されていない。

・研究はどこかの研究所で極秘裏に行われている。

・能力者の強度レベルを自由自在に変更できる。

 以前見た時と変わらず、この二点しかない。

 念の為に議論用のスレッドも見てみるが、最初は真面目に語っていたうわさ好きの人間達も、今やオススメのラーメン屋やどこの制服が一番えるかといった雑談に興じている。

 これ以上見ても仕方ないとさとり、てんはサイトを閉じた。

 そこでやっと周囲が暗くなってきている事に気付いた。

「――今日はこれで切り上げて帰ろう。遅くなると危ないし」

 完全下校時刻を過ぎてしまうと、警備員アンチスキルに補導されたり、不良やスキルアウトに絡まれやすくなったりするので、大人しく帰るのが得策だ。

「まあ、遅い時間に出歩いている人達の方が情報持ってたりするんだけど――いや、でもさすがになぁ。私一人だとさすがに不安だな……」

 そこまで言って、頼りになる超能力者レベル5風紀委員ジヤツジメントの友人が思い浮かんだが、

「いやいやいや。さすがに情報集めたいからって、そんな理由でさかさん達を巻き込んじゃダメでしょ」

 脳内会議であっさり否決した。

「うん、馬鹿な事考えてないで帰ろっ」

 考えながらで遅くなっていた歩みを速め、一路寮を目指す。幸いここから寮はそこまで遠くないので、すぐに帰る事ができるだろう。

晩ご飯をどうしようか悩みながら歩いていると、ふと、あるものが目に留まった。

 道の先、路上に何か大きなものが転がっているのだ。

 色は黒と白とこん、そして肌色。その中で紺が目立つそれは横に長く、長さは一五〇センチほどだろうか。

 一瞬何なのか理解できなかった佐天だったが、冷静に目の前のものを見て、考え、

「――って! 人じゃないですかぁ!!」

 それが倒れている人間だと気付き、慌あわてて佐天は駆け寄るのだった――。



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