「ドーナツ、ドーナツ、ドーナッツー♪ それは甘くておいしい〜、それは甘くてふわふわ〜。ドーナツ、ドーナツ、ドーナッツー♪」

 インデックスは陽気に自作のドーナツの歌を口ずさみながら、街をスキップしつつ歩いていた。

 あまりのはしゃぎように周囲から好奇の視線を集めているが、当の彼女は全く気付いていない。

 インデックスの脳内はもうドーナツの事でいっぱいで、それ以外の事など毛ほども気に留めていないからだ。

 だからこそ、財布を持ってきていない事にも一切気付いていない。

 そんな彼女は、視界に入った白と赤のコントラストを目に留めた。

「あいさー!」

 声をかけながら、インデックスは巫女服を着た少女、姫神の所へと向かう。

 呼びかけに振り向いた姫神は、近付いて来るインデックスを見咎めると、嘆息してから立ち止まった。

「貴女か。一瞬誰かと思った」

「インデックスだよー。ねー、あいさ。今日テレビ出てたでしょ?」

「見てたのか。知り合いに見られているとさすがに恥ずかしい……」

 顔を赤らめる姫神だったが、インデックスはそんな様子を気にも留めず、その視線を姫神の右手に集中させていた。

 それに気付いた姫神は、箱をインデックスの目の前に掲げて見せた。

「これ? テレビを見ていたなら分かると思う。あの店のドーナツ。あまりに美味しくて12個入りのを買ってしまった」

 姫神がちゃんと説明するも、インデックスの意識は完全にその箱に集中していて、聞いちゃいない。

 そんな物欲しげなインデックスの様子に、姫神は溜息をついた。

「……そんなに欲しい? それなら幾つかあげてもいいけど」

「ホント!? もらう! 絶対もらう!」

 姫神の提案に、インデックスは思いっきり食いついた。あまりの必死の形相に、提案した姫神が少し引いてしまっていた。

「ま、まあ、こんなにあっても困るし。ちょっと待って。今から分けるから」

 そう言って姫神は箱を開けると、どこから取り出したのか、紙袋にドーナツを2つ入れると、インデックスに手渡した。

 インデックスは袋を受け取ると、涎を垂らしそうな顔でそれを抱え込み、満面の笑みで姫神を見た。 「ありがと! あいさはいい人だ!」

「貴女の基準だと食べ物をくれる人は全員いい人になりそう――。それじゃあ私は帰るからこれで――」

「うん、またねー!」

 インデックスは去っていく姫神の後ろ姿が見えなくなるまで、ぶんぶんと手を振り続けた。

 こうしてインデックスは、無一文にも関わらず、ドーナツを手に入れる事に成功したのだった――。



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