翌日――。

「……何でこんな目に……」

 御坂はブラウスの袖に腕を通しながら、愚痴を漏らす。

 だが、新品特有の服の固さに多少の着にくさを感じたものの、幾分か気が引き締まるのを御坂は感じていた。



 結局、昨日は照明、調理器具、レジなど諸々の電化製品類全て復旧の見通しが立たず、急遽臨時閉店となった。

 全ての修理や交換が終わるのは数日後。バイトもそれからだろう、と思っていた御坂だったが、店長の北南は『明日来い』と告げていた。

 そして今日。

 疑いながらやって来た御坂が見たのは、平常どおりに営業が行われている光景だった。店内に入ってみると、電化製品は正常に作動しており、よく見ると一部は新品へと取り替えられていた。

 昨日の今日で全てを元に戻した北南の手際の良さに驚いていると、当人が御坂の前に現れ、

『じゃあ、今日から頼むぞ』  と言い残して、店長室へと消えて行った。

 御坂のただ働きアルバイトは今日からスタートである――。



 そして今、御坂は店奥の店員控え室で、制服に着替えている最中である。

 御坂の隣には、昨日御坂に助けられたウェイトレスが手伝いとしており、御坂用の真新しい制服を手に複雑な表情を浮かべていた。

「ご、ごめんなさいね。私のせいで……」

「……だから、さっきから謝らないでって言ってるじゃない。私が勝手にやったことなんだから。――えっと、小巻さんでよかったっけ?」

「あ、はい。小巻、小巻頼子こまきよりこです」

「アナタももっと自己主張した方がいいわよ。昨日のだって、さっさとはねつければよかったんだし」

「それができればいいんですけどね。私、あまり人に強く言うのはちょっと……。あ、これスカートです」

 ありがと、と礼を言って、御坂はオレンジ色のスカートを受け取った。常盤台の制服のスカートを手早く脱ぐと、バイト用のスカートを履く。と、そこで小巻が、あ、と言葉を漏らした。

「どしたの? 何か問題あった?」

 キョトンとする御坂に、小巻は苦笑を浮かべ、

「え、えっと……さすがにショートパンツは脱いでもらった方がいいかなーと……」

 小巻の言葉に、御坂は眉をひそめる。あからさまに御坂が嫌悪感を露にしたので、小巻は慌てて、

「い、嫌ならいいんですよ? で、でもさすがにこのスカートの下にショートパンツというのは……。うちの制服のスカートだと、めくれることは滅多にないですし、それ履いてなくても大丈夫だと思います……よ?」

「――わかったわよ。脱げばいいんでしょ脱げば」

 御坂がしかめっ面でショートパンツを脱ぐと、ぐいっと手を小巻に突き出して、次に着る服を暗に要求した。小巻はこれ以上不機嫌にはさせまいと、すぐに白いニーソックスを差し出す。

 御坂は無言で椅子に座ると、ぐいっとソックスを引っ張りあげて、よれ無く綺麗に履きあげた。

「さ、最後にこのエプロンをつけてください。これで着替えは終わりです」

「はいはい。――で、これでいいのかしら?」

 エプロンを身につけ、御坂は小巻の前に立って最終確認をしてもらう。

「――ええ、大丈夫ですよ。よく似合ってます」

「それならよかった」

 小巻に笑顔でOKをもらった御坂は、鏡も見ながら一回り自分の格好を再確認する。最初は、普通なら絶対しないような格好の自分を見て笑みも浮かんでいたが、次第にその表情に影が差していく。 「でもさ。これ、ちょっと気になるのよねー……」

「え、何がですか?」

「……この服ってさ、体の一部分がすっごい強調されるようにできてない……?」

 御坂はジト目で、小巻の体の一部を凝視する。

 小巻は何のことかわからず困惑していたが、御坂の視線が、自分の大きく盛り上がる胸元に向けられていることにようやく気がつき、そのまま目線を流し御坂の胸部を見て、

「――え、えっと! それじゃ、仕事の説明をしますね!」

「ご・ま・か・す・なああああああぁぁぁぁぁ!!」

 あからさまな小巻の誤魔化しに、御坂の不満は爆発した。

 控え室に御坂の絶叫が響き渡り、小巻は慌てて控え室を飛び出すのだった――。



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