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 日はとっくに沈み、月が辺りを照らす頃。

 学生寮の玄関ホールに設けられたソファに、寮監は腰かけていた。

 彼女が待っているのは、門限破りの寮生達。常盤台学生寮は基本的に表玄関からしか出入りができない為、ここで座っていれば自然と門限破りの生徒を待ち構える事ができる。

 寮監は手首につけた腕時計の文字盤を見つめ、

「――既に門限から一時間。門限破りは数名捕まえたが……まだ戻っていないのが二人……。しかも常習者か……!」

 腹立たしげに吐き捨て、彼女は腕を組んだ。

 夜の点呼で部屋に行ってみれば、どちらか一人がいないどころか、二人ともがいなかった。

 その常習者の名は、

「御坂美琴に白井黒子……。全く、こいつらは寮則というものをどう考えているのか……」

 苦々しげに吐き捨てながら、寮監は寮の重厚なドアを睨む。

 そして、そのドアがゆっくりと開き、まるで泥棒にでも入るかのような忍び足で、美琴と白井が中へと入ってきた。それで隠れられているつもりなのだろうかと半ば呆れつつ、寮監は二人の後ろへと回り、

「――待て、二人とも」

 突然声をかけられた二人は、錆びついたブリキ人形のように首を後ろに回すと、その顔からは一瞬で血の気が引いた。

「今日は朝から騒いだかと思うと、夜は門限破りか。ご大層な身分だなあ。そう思わないか、御坂?」

「そ、そうですね! でもでも、今日はちょっと色々ありまして……」

「そうですの! ちょっと風紀委員の仕事が長引きまして、それをお姉様にもお手伝いを……」

 慌てふためきながら二人が言い訳するが、冷酷無比な視線は嘘をいとも簡単に見破る。

「それならば、その事がこちらにも連絡が来るはずだ。だが、そのような連絡は私には来ていない。という事はどうなる?」

 簡潔ながらも十二分な死刑宣告に、当の二人は黙りこくる。

 残念ながら、彼女達に逃げ道は一切ない。そのような事は前から百も承知のはずだったが、万が一の可能性に賭けた彼女達の選択はいとも簡単に破られた。

 大量の汗を流し、乾いた笑みを浮かべながら、二人は寮監と顔を対峙させる。だが、逃げ道がないと悟った彼女達が取った行動は驚くべきものだった。

「どうせ逃げられないなら、今日こそやってやらあ――っ!」

「その意気ですわ、お姉様! 超能力者のお姉様と大能力者のわたくしが力を合わせれば、寮監なぞ恐れるに足りませんわ!」

 美琴の体からは火花が散り始め、白井は軽く腰を落とす。そして、美琴は電撃を寮監に向かって放ち、白井はその姿をかき消すと、一瞬で寮監の後ろへと現れた。

「もらったあっ!」

「もらいましたわ!」

 不意打ちの成功を確信し、二人は歓喜の声とともに寮監へと一撃を与えようとする。

 だが、そんな中でも寮監は涼しい表情で立ち続けていたかと思うと、

「度し難いな、全く……」

 溜息とともに、その体を疾走させた――。




 次の日、学生寮の玄関ホールには、美琴と白井が縄でがんじがらめにされ、二階から吊るされていたという――。



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