『この前の堕天使メイドは残念だったにゃー。カミやんもあそこまでドン引きとは……。どう考えてもあれは大爆しょ(ry
 ――まあ、ねーちんもあれでは引き下がれないと思ったんで、今度こそ! 今度こそばっちりなアイテムを送るぜい。
 一足早いお歳暮、クリスマスプレゼント、お年玉と思って受け取ってくれにゃー。
 P.S. 巨乳といえば牛柄! つー訳で、牛柄にしといたぜい(笑)』


 箱と一緒に同封されていた土御門からの手紙を読んでいる間、神裂は怒りを押さえ込もうと必死で、体がずっと震えっぱなしだった。

「……あいつは……私に一度恥をかかせただけに飽き足らずこんな物を……!」

 手紙を強く握り締めながら、神裂は傍らの箱に視線を向けた。

 箱に収められていたのは、ビニールで梱包された牛柄のビキニ水着だった。

「あいつは何をやらせたいのか!? 私は普通にあの方に礼をしたいと思っているのに、何故珍妙な格好をさせようとする!? あいつの意図は測りかねる!」

 憤慨しつつ、神裂は手紙を脇に置いて、箱から牛柄ビキニを取り出した。

 牛柄というのが変わってはいるが、ビキニとして見れば布の大きさは極端に小さいこともく普通ぐらいで、特におかしいところはない。はっきり言って、普通のビキニ水着と言える。

「本当にあいつの意図がわかりかねる……。これであの方は喜ぶのか……?」

 一世一代の勇気を振り絞った堕天使メイドが失敗した事を考えると、こんな単純な物であの少年を喜ばせることができるのか、神裂にとっては全く理解できなかった。

 神裂は悩みながら、ビキニを胸元にあてて、鏡で姿を見てみる事にした。

 サイズは丁度神裂に合いそうな具合である。
 その事に多少、土御門がどうやってサイズを測ったのか気になった神裂だったが、嫌な予想も浮かんでしまったので気にしない事にした。

(ひとまず、試しに着てみるか……)

 少年に見せる見せないはともかく、とりあえず一度着てみようとするというのは、何らかの誘惑でもあったのだろうか。

 神裂はTシャツを脱ぎ去ると、ビキニをささっとつけた。

 さっき見た通り、サイズに問題はない。
 こうなるとさすがに土御門がどうやってサイズを測ったのか真剣に気になってしまい、今度会った時問い質そう、と神裂は心の中で誓うのだった。

 そして、片方の裾がない独特のジーパンを脱ごうと手をかけたところで、

「神裂ー。何かオルソラが呼んでるぞ――って、お前、何やってんだ?」

 ノックも無しにドアを開け、呆れた声を上げたのは、『必要悪の教会』所属の魔術師、シェリー=クロムウェルだった。

 彼女は開け放ったドアの前で立ち止まって、今まさにジーンズに手をかけたまま止まって動かない神裂を訝しげに見ていた。

「神裂さーん。シスター・オルソラが呼んでますよ――って、何ですか、この状況?」

 遅れてやって来たのは、アンジェレネやルチアが所属するアニェーゼ部隊のリーダー、アニェーゼ=サンクティス。

 彼女はドアのところで突っ立ったままのシェリーに疑問を覚えたが、部屋の中を覗き込んで、さらに疑問を深くした。

(こ、これは一体何なのでしょう? 私はちゃんとドアの閉めていたはずですが……!)

「あー、着替え中だったか? すまないな。ドアが半開きだったんで、ノックを忘れた」

(なるほど。ドアが半開きでしたか。それなら多少は理解できます。いや、しかし、今の状況はちょっと……)

 この状況に至った経緯を確認はできたが、神裂としては今の状況は予想外だった。

 女同士とはいえ、着替えている最中に入って来られるというのはそれほど好ましい状況ではない。

 しかも何と言っても、自分は今、季節外れの水着をつけているのだ。しかも牛柄という変わり柄。いつもの自分のイメージを考えると、今の姿を見られるのは屈辱に近い。

「もー、何止まってるんですか、二人共。ほら、神裂さん。シスター・オルソラが呼んでるんですよ。さっさとして下さい。
 あ、それと、何ですかそのビキニ。牛柄って。既にでかい胸をさらに自慢でもするつもりですか? 嫌味にもほどがありますね、全く」

 吐き捨てるように言って、アニェーゼはさっさと行ってしまった。

 その言葉に、シェリーは絶句していたが、それ以上に神裂にその言葉が突き刺さった。

 ただでさえ着替えと、あまり好ましくない格好を見られたのだ。

 そこに今の言葉である。

 いくら『必要悪の教会』所属の魔術師であろうとも。

 いくら天草式十字凄教の女教皇であろうとも。

 いくら世界に二〇人といない聖人の一人であろうとも。

 神裂火織は、一人の人間であり、乙女である。



「うわああああああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」



 女子寮全体に響き渡るような絶叫を発し、神裂は部屋を飛び出した。



   その後から数日間、女子寮で神裂の姿を見た者はいない。

 一説では、複数の魔法結社がその数日間で壊滅したという話もある――。



        ●



 場所は変わって学園都市。

 益のない退屈な授業を受けながら、土御門は机に突っ伏していた。

(さーて、そろそろ例の物がねーちんのところに届いたはずにゃー。ねーちん、牛ビキニ着てくれるかにゃー?
 しかし、堕天使メイドに比べると今一つなんだにゃー、アレ。もっともっといい物探さないと、やっぱ面白くないにゃー……)

 授業を一切聞かず、土御門は新たなアイテムがないか思考し続ける。

 そんな身の入っていない彼の様子に気が付いたのか、

「土御門ちゃーん? 授業聞いてなかったら、コロンブスの卵させますよー?」

「え、ええっ! き、聞いてるにゃー! 聞いてるんだにゃー!」

「なら、この問題解いて下さーい。聞いてたらわかりますよねー?」

「さすが小萌先生、ツッコミ厳しいにゃー……」

 その後、土御門は居残りでコロンブスの卵をやる事になったのは言うまでもない。

 だが、コロンブスの卵以上に恐ろしい災厄が彼の身に降りかかる事になる事は、まだ誰も知らない――。



Fin... 



【前】  【戻る】