行間 一




 学園都市の何処かにある邸宅に、個人の家にあるには不釣り合いなほどぜいを凝らしたホームシアターがある。

 ドーム状の室内には三〇〇インチの超高密度ディスプレイが備え付けられ、スピーカーは三六〇度全てに配置されているという、街の映画館も真っ青というレベルの代物だ。

 その中に、これまた高級そうな革張りの椅子に座っている一人の少女がいた。

 少女の名は、雲川芹亜くもがわせりあ

 学園都市統括理事会の理事の一人、貝積継敏かいづみつぐとしのブレインを務める天才少女である。

 彼女はサイドテーブルに置かれたジュースを飲みながら、気だるそうに手元にある資料をめくっている。
その様子は適当に授業を受けている生徒のようにしか見えず、彼女がそれほどの能力の持ち主には見えないほどだ。

 だが、そんな彼女に付き添うように貝積継敏が立っている光景を見れば、それが邪推だと分かる。

「それで、どうかな?」

 貝積が尋ねると、雲川はつまらなそうに呟く。

「――ま、これでいいんじゃない。特に問題はなさそうだけど」

「分かった。それじゃあこれで計画は進める事にしよう」

 雲川は持っていた資料を投げ捨てるように貝積に渡すと、持っていたジュースを一気に飲み干す。

「今日はこれで終わり? 終わりならもう帰るけど」

「いや、もう一つある。これは急な案件みたいでね。君の意見も聞いてみたい」

 言いながら、貝積は新たな資料を取り出し、雲川に渡す。雲川はめんどくさそうにそれをパラパラッとめくっていく。

「何々? 何だ、また侵入者か。最先端の厳重なセキュリティシステムってのはお飾りにしか思えないけど?」

「耳が痛いな……」

 雲川の指摘に貝積はバツが悪そうに答える。しかし、指摘した当人はそんな事はもうどうでもいいのか、資料をどんどん読み進める。

「それで侵入者ネズミの数は――一六匹か。傭兵、暗殺者、工作員。そして魔術師。――おやおや、ヒツジの皮を被ったのまで紛れ込んでるけど。いけないよねぇ、こういうのは」

 侵入者の情報を見て、それまで退屈そうだった雲川の表情に笑みが現れる。

 そして、次のページをめくった所で雲川の手がピタッと止まった。そんな彼女の様子に貝積が怪訝な表情を浮かべる。

「どうした? 何があった?」

 貝積が尋ねると、雲川は額に手を当て、クックックッ、と笑い声を上げ始めた。

 心底楽しそうに笑う雲川の様子に訳が分からず、貝積は首を傾げるしかない。

「見逃している可能性はあると思ってたけど。あっちからやって来てくれるとはね。貝積、これは本格的に動く必要が出てきたけど」

「……全く、君は何の話をしているんだ? その資料、私はまだちゃんと目を通していないから、どういう事なのか分かりかねる」

 雲川は手元の資料を貝積に差し出す。

 そして、貝積がそのページを見て、その表情を驚愕に変えていく様子を楽しそうに眺めながら、言い放つ。



「分かったかい? 侵入者の中に『原石』がいる――」



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